ピラティスと「応用機能科学」(2)
Yasuです。
前回の記事で、Nahokoさんが「応用機能科学」から学んだことを共有させていただきました。私も一緒に参加していて、そこで感じたことを追記させていただきます。
Nahokoさんの記事で『変化は「意識して」起こすのがピラティスの感覚だったのですが、「無意識に(意識下で)・自然に」起こせたら最高だよなー、と思っています』という部分について、少し掘り下げてみます。
マインドフルなピラティス
ピラティスは、身体や動きだけでなくMind(マインド)との関係も重視します。マインドは「こころ」と訳されることが多いですが、「頭を使う・考える・意識する・集中する」という意味も含みます。そのエッセンスはAwareness(気づき)と表現されることもあり、動きに必要な身体の感覚と力を習得するのに有効です。その先には、動きの精度を上げたり、強度を上げたり、複雑な動きに発展させていくことを行います。
例えば、ピラティスの「ペルビックカール」というエクササイズは、背骨を動かすことを主な目的として行います。背骨の骨(椎骨)は、それ単独では動かせないので、腹筋や下半身の筋肉を使って間接的に背骨を動かしますが、背骨がどのように動いているか、どういう角度で動いているかを認識すると、動きそのものは運動なのですが、マインドが介在してピラティスっぽくなります。
腹筋の力加減や力の入れ方など、身体への入力(インプット)を変えると、背骨の動き(アウトプット)が変わります。この変化に敏感になっていくと、よりマインドフルな運動になります。
人の身体は260個ほどの関節があるので、いろいろな関節について、それぞれのエクササイズを駆使して、使っていける量を増やす、使っている感覚を広げる。このことは、ピラティスから得られる利点の1つです。
ピラティスで分かる身体の課題
意識して身体を動かす、意識によって身体がより動けるようになる、のはピラティスの効用であり面白いところなのですが、「意識による動き」が得意な人もいれば、苦手な人もいます。
しかし、苦手な人が劣っているということでは決してなく、意識下の脳と身体がつながりやすいかそうでないかの違いに過ぎません。世の中には、身体の意識などをせずに、インストラクターの見本を見て、(運動に関して)直感的にコピーできてしまう人も一定数いらっしゃいます。
では、運動に関して直感的ではないタイプの人(実際にはこっちのタイプの方が多いと思います・・・)はどうしたら良いか?「意識しても身体のパーツが動かしにくい」、「意識しても動きの再現性が低い」人をどう教えていくか、は私たち運動指導者の出番です。
ピラティスのエクササイズは、肩の安定や可動、足における重心の取り方、など身体のパーツに分解して行っていくものが多く、「その人がどこに課題が多いのか」を識別するのに向いています。
比較対象として、ゴルフやダンスなどの全身運動を考えてみます。パフォーマンスが悪いのは分かるけど、何が原因でそうなっているのか、どこから手をつけるべきか、を探るのは大変です。指導者には熟練した技術や経験が必要ですが、クライアントさんが課題を感じて向き合うハードルは低くありません。
ローカルな課題に対応するローカルなエクササイズ
動きにくい身体のパーツには、足裏、足首などの土台にはじまり、股関節、肩関節(実際はより細分化します)など、多岐にわたります。原因が何かあるはずで、例えば日常的に座りっぱなしで運動不足など、が挙げられます。
エクササイズを行うと、動きを阻害していそうな箇所が見つかります。それが足首だったとすると、この足首の課題のことを「ローカルな課題」または「ローカル」と称します。
ピラティスに限らず、エクササイズは一般に1つの関節だけに焦点をあてることは少なく、「グローバル」な動きです。グローバルからローカルな課題が見つかると、私たちがよく行うのは、よりローカルに焦点を充てたエクササイズの提案です。
例えば、足首の動きが硬い人には、足首の緊張を取るようなエクササイズを行う。足裏の感覚や動きに乏しい人には、足裏に特化したエクササイズを行います。
ここで、人の身体はみんな違う、それぞれの人が抱える課題は違う、という現実が大事になってきます。ひとりひとりに合わせたエクササイズをプログラムすることの意味は、ここにあります。
「応用機能科学」的なアプローチ
今回、学んだ応用機能科学では、ローカルな課題に対してあらかじめデザインしたグローバルなエクササイズを行うのが特徴的です。なぜなら、身体のパーツはつながっていて、つながりにおける滞りが減れば、もともとのローカルな動きも良くなるだろうという考えにのっとっています。
先の足首の動きが硬い人の例では、足首を意識させないのに足首が動くエクササイズを行います。いつの間にか足首が動かされていて、しかもそれが日常的に行う動作に役立つという発想です。
ローカルに対してローカルにアプローチすることが、カメラで被写体にズームインすると表現するのであれば、グローバルにアプローチする方法は、ズームアウトに当たります。
今回私たちが学んだ応用機能科学のトレーニングは、1978年にすでにその教育団体が立ち上がっていて、トレーニング業界の中では歴史があると言っても過言ではありません。
実際に、一部の方のレッスンに取り入れてみると、「なんだか分からなかったけど、動きやすくなった」というフィードバックが多数ありました。
パフォーマンスの現場で大事なこと
スポーツの場面、具体的には試合中にて、私たちが知る範囲では、身体のすべてのローカルについて、意識を向けている人は知りません。
ローカルを意識するどころか、ゴールは試合に勝つことであり、集中を高めるとか、狙いたいコースを意識する、相手の動きを注視する、などローカルとは別の要素に意識が向くと思います。
ゴルフだったら、試合中に手首の角度はこう、と考えて打っているアスリートはいないはずです。マラソンだったら、つま先の方向はこう、と考える選手はいなくて、どこで相手を引き離すかなど駆け引きに意識が向くはずです。
日常生活でも同じです。私たちのスタジオでは、歩行や座り姿勢で注意したい身体の使い方を学習します。しかし、常に理想的な歩き方を意識して歩いたり、理想的な座り方を意識できることはできないし、またそれを推奨していません。
だからこそ、動きの部分については、日頃の練習で同じ動きを徹底的に反復し、無意識でも同じパフォーマンスが出るよう鍛錬する訳ですね。
そのため、ローカルについて課題が見つかったとしても、それを手段を選ばずに改善し克服することが大事なんじゃないかと思うのです。
どちらが良いという性質の議論ではない
ローカルな課題に対して、よりローカルに焦点を絞って動きを改善するか、逆にグローバルな動きの中で動きを改善するか、はどちらがより良いという論争ではありません。
その人の性格にもよるし、ローカルな場所にもよるし、スポーツへの対策であれば競技特性によっても変わるはずです。また、改善のプロセスを通じて何を得るかによっても変わるはずです。
マインドとのつながりを大切にするピラティスとの関係性にも注目しています。マインドを高めるのであれば、よりローカルに掘り下げていく考えになりそうですが、本来習得したい動きを阻害する要素が目的とは離れたところに存在し、それが障壁になっているのであれば、グローバルに対応する方が、理にかなっているかもしれません。
この適材適所を見極めるには、私たちはもう少し経験を積む必要があると思っています。
Kinetikosさんでの応用機能科学のセミナーの様子(出典:Kinetikos)