身体を効果的に使うアイデア
Yasuです。
Olaのスタジオセッションでは、お客さまそれぞれの目標、お悩み、身体の癖、動きの癖についてお話を伺い、アドバイスをしております。
お客さま固有のお話を伺って提案となると、昔はプライベートレッスンでなければできなかったので、1日5人が限度・・・。スタジオセッションを行っている現在は、3時間のレッスンでも10人に提案ができ(1日ではもっと多くのお客さまに提案しております)、いろいろな事例に触れる機会があります。
このいろいろな事例に触れることで、わたしたちインストラクターが教科書になかったことを考え工夫することができます。今日の話題もその中から生まれたものです。
レッスンの1コマ
先日、あるお客さまのエクササイズを見ていて、手首の角度が気になったので、こうしたら良いと指導しました。Olaのレッスンでは日常茶飯事の光景ですが、類似の例を挙げるとかなりあって
- 足の指は反らさない
- 足の指で床やバーをつかまない(いわゆるハンマートゥにしない)
- 足首は曲げすぎない、伸ばしすぎない
- 足首を外にひねらない(特に股関節を外旋するとき)
- 手の指でバーなどをひっかけて持たない
- 手の親指の角度
- 手首を曲げすぎない、逆方向にもしすぎない(いわゆる掌屈、背屈にしすぎない)
- 頭は背骨の延長線上にあるかどうか
など多岐にわたります。(専門用語を交えましたが、聞きなれない用語は読み飛ばしてください。)
共通項があるのに気づきましたでしょうか?いずれも身体の末端にあるパーツのお話です。
身体の端には何がある?
「ピラティスは体幹トレーニングに良い」というイメージからすれば、こうした身体の末端について指導を受けるのは、違和感を覚えるかもしれません。
ピラティスの学びはじめでは、体幹の筋力を上げることを優先するので、身体の末端について指導することは稀です。先ほど挙げた指導のほとんどは、ある程度ピラティスを学んだ方へのものです。
さて、身体の末端について指導することにどんな意味があるのでしょうか?
表現力を指導するのとは別
昔、僕がまだピラティス初心者だったころ、当時の先生より「肘と指先を伸ばして」とか「膝を伸ばして」と指導されたことがあります。身体の硬い僕にとっては、いずれも大変な作業であり、また身体の隅々に意識を向けるという意味で必要だった指導です。
しかし、こうした伸ばす系の指導と先に挙げた例は、目的は異なります。伸ばす系の指導は、文字通りストレッチを深めて関節の可動域を高めるのが目的です。もし僕がダンスを行う人だったら、表現力を高める指導であったとも言えるでしょう。
肘や膝は、身体の末端ではないですよね。そういう意味でも、先に挙げた例とは異なります。
テコの原理
有名なテコの原理。小さな力で大きなものを動かすことができるというお話です。
実は、わたしたちの身体でも、身体の末端を少し変えるだけで、力が発揮しやすいという現象が起こります。例えば
足の指を反らす、または足首を強く曲げる:足裏で(ピラティスマシンの)バーを押すときに無意識に指を反らす、足首を曲げる方がいます。どちらも「なし」にすると急に押しにくくなる方が多いです。
顎を上げて胸部の背骨(胸椎)を反らす:背骨が硬いなどの理由で反らすことが難しい場合、顎や目線を上げることで胸椎を反らす方がいます。しかし、実際は胸椎はあまり動かず、首の背骨(頸椎)や腰の背骨(腰椎)の方が動きやすいので、同じ動きを真似ただけのケースが多いです。
いずれの例も、物理的なテコではないので、テコの原理とは異なりますが、言いたかったことは、端っこを操作することで目的を達成するという意図が同じです。体幹部の筋力や可動域を補うために末端を器用に使うわけです。人間ってすごいですね。
表現は悪いですが、テコの原理を悪用した例と言っても過言ではないでしょう。このような現象は、ほとんどと言って良いほど無意識に行われることが興味深いです。
テコの原理を悪用した日常の例
ハンマートゥ:靴の中で足指でインソールをつかむことをハンマートゥと呼びます。本来、足裏全体で履いた靴に力を伝えるべきところ、靴のサイズが合っていない(紐をしっかり結んでいない)、足裏の筋力が足りない場合に出る現象です。サンダル履きではさらに多く見られます。
手首の曲げすぎ:フライパンや包丁を握るときに手首を曲げすぎて使う例です。前腕や肩の前側が疲労する場合など、手首の角度を疑ってみる必要があります。
いずれも「なぜそういう動きにしたのか」という理由はその人にはなく、極めて日常的な動きであるということが特徴です。
眼の動きだけでも起こる
実は、眼についての記事でも、同じ例について触れています。目線が変わるだけで頭の位置が代わり、身体全体のバランスが変わってしまうことが可能性として起こります。
野球や剣道の経験者から、眼球だけを動かして頭が動かないようにしたという話を聞いたことがあります。頭が動いてしまったら正確な動きができないだけではありません。頭の動きに応じて、(野球の打席で)特定のコースを攻められたり、(剣道で)打ち込まれたりするそうです。対戦相手に弱点を見せることになるそうです。
身体の中心部を効果的に働かせる
テコの原理を悪用しないということは、身体の中心部をより効果的に働かせると言いかえることができます。例えば最初に挙げた例では
足の指を反らさない、または足首を強く曲げない:足で(ピラティスマシンの)バーを押すとき、足の指を反らすと足の甲や脛に力が入るので押しやすくなります。足首を強く曲げると膝の屈伸で同じ動作が行えます。では、足の指を反らさない、足首を強く曲げないとなると、足裏の筋肉が使わされます。足裏は身体の中心部ではありませんが重要なパーツで、足裏を使うと腹部も使わされる感覚が得られます。
顎を上げて胸部の背骨(胸椎)を反らす:背骨の反らし幅は、顎を上げた場合に対して減りますが、背骨を反らすために必要な筋肉を感じやすくなります。
野球の選手が手首のスナップを利用する例のように、身体の末端を効果的に使うことは大事なのですが、それ以前に身体の中心部が効果的に使われていることが前提ですよね。
ピラティスならではのトレーニング
ピラティスにはいろいろな効果があると思っていますが、今回の例のような身体の末端部に頼りすぎない動きを知った上で、身体の末端部を利用する、もしくはバランスよく使っていくことは大きなメリットだと思います。
特にスポーツをする方は、ご自分が愛好するスポーツがなぜそういう身体の使い方を求めているのか、指導者から言われたことの意味は何なのか、を考え納得して進んだ方がパフォーマンスの向上や怪我の予防に役立つと思います。